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腫瘍以外の分野でのカイジ製品の応用

【要 旨】

カイジが健康食品として初めて日本に紹介されてから10 年近く経過した.カイジはがん治療分野ではエビデンスが蓄積され,統合医療に詳しい医療関係者にも知名度は上がってきた.また,カイジは呼吸器や腎疾患などがん以外にも有効性が確認されている.本総説ではカイジのさまざまな科学的エビデンスを詳述する.


【キーワード】

 カイジ,健康食品,気管支喘息,腎臓病,免疫調節

 カイジはマメ科落葉高木の老齢の中国 槐えんじゅ(Sophora japonica) に成長する真菌で,耳のような半円形としているため,槐かい耳じと名づけられた(写真 1).槐〓,槐菌,槐蛾,槐鵝,槐鶏などの別名もあり,古くから民間で主に腫瘍や炎症性疾患などに使われてきた.学名は Trametesrobiniophila Murrill であり,1973 年 Ainsworth による分類では,Fungi・菌界―Eumycota・真菌門―Basidiomycotina・担子菌亜門―

Hymenomycetes・帽菌綱―Aphyllophorales・ヒダナシタケ目―Polyporaceae・サルノコシカケ科―Trametes・ホウロクタケ属に分類される.漢方薬として使われてきたカイジに関する最も古い記録は 1,500 年程前にさかのぼる.「薬性論」,「新修本草」,「食物考」などの古代医書に,「能治風,破血,益力」,「療痔」,「腸風血止,焼灰殺疣,能断月水」などの臨床経験が記載されている.明代の薬学名著である「本草綱目」にも「苦,辛,平,無毒」という性味の説明があった.しかし,中国槐の古木にしか成長しないため,入手が難しく,清代からの数百年間は,カイジの漢方薬としての記述はすっかり姿が消えた時期もある.1978 年に,カイジを摂取した肝臓がん患者が完治したことをきっかけに,カイジが再び脚光を浴び,8 つの医薬,研究機関,100 人近くの研究者が参加した開発プロジェクトがスタートし,1992 年に医薬品認可,1997 年に漢方薬製造許可,2000 年に国家 I 類漢方抗がん新薬の認証を中国衛生部(日本の厚生労働省にあたる)より取得した.現時点で使用されているカイジ製品は,カイジエキスを主成分とする槐耳顆粒と,カイジエキスに黄精エキス,枸杞子エキスを加えた槐杞黄顆粒という二つのタイプがある.前者は主に腫瘍科,後者は呼吸器内科,腎臓内科で使用されている.以下,本文中のカイジ製品は槐杞黄顆粒を指し,日本では食品として流通している.


呼吸器疾患


 カイジエキスとその顆粒製品は古代医学書に記載された通り,「治風,破血,益力」(抗アレルギー,血流改善と抗腫瘍,免疫調節)等の機能が基礎研究または臨床で確認されている1–6).カイジエキスに枸杞エキス,黄精エキスを配合したカイジ製品も,東洋医学では益気養陰,健脾潤肺補腎の作用があるとされ,免疫系,消化系,呼吸系,泌尿生殖系など,がん以外にもさまざまな疾患に用いられている.東洋医学では,呼吸器疾病,特に気管支喘息の多くは気虚,陰虚,それとも脾,肺,腎の虚証に起因するとされるため,カイジ製品がふさわしい選択肢の一つとされている.


 基礎研究では,卵白アルブミン (OVA) 誘導性喘息ラットが正常ラットより高値を呈した血清 OVA 特異性 IgE,気管支肺胞洗浄液 (BALF) 中の好酸球数および IL-5 は,デキサメタゾン投与またはカイジ製品との併用により有意に低下した.また,併用群の数値はデキサメタゾン単独使用群よりも低く (P<0.05),正常群との間に有意差がなかった.喘息ラット BALF 中の IFN-γ は正常ラットに比べて低下したが,デキサメタゾン群またはカイジ製品併用群では回復した.併用群の数値はデキサメタゾン単独使用群よりさらに高くなり (P<0.05),正常群に近いレベルであった (p>0.05).カイジ製品が OVA 特異性 IgE とIL-5 の産生を抑え,IFN-γ の産生を促し,Th1/Th2 バランスを調節し,好酸球性気道炎症に抑制作用を発揮すると考えられる7).


 別の研究で OVA 誘導性喘息ラットの血漿およびBALF 中の IL-4, IL-17 は正常ラットより上昇し,IFN-γ が低下した.カイジ製品の投与はモデルラットの低下したIFN-γ を正常レベルまで引き上げた.カイジ製品とブデソニド吸入との併用はモデルラットの異常 IFN-γ およびIL-17 を改善し,その効果はカイジ製品またはブデソニドの単独使用よりもすぐれた.モデルラットで低下した肺胞マクロファージの食作用に関して,カイジ製品の投与またはブデソニドとの併用では,正常群,喘息群,ブデソニド吸入群より有意に上昇した数値が観察された.血漿 IFN-γ でも,BALF 中 IFN-γ でも,肺胞マクロファージの食作用と正相関していた.カイジ製品は Th1 細胞の機能を増強させ,IFN-γ 発現を高め,糖質コルチコイドとの相乗効果も示した.IFN-γ がマクロファージの食作用を増強するため,ブデソニド単独使用で変化しなかった肺胞マクロファージの食作用はカイジ製品またはブデソニド吸入との併用で改善した.糖質コルチコイドの使用は全身または局部の免疫機能を低下させる恐れがある.肺胞マクロファージの食作用の低下はその一例であり,喘息の誘因である呼吸器感染につながる.カイジ製品との併用はそれを防ぐことが可能であると報告されて

いる8).


 肺組織トランスフォーミング増殖因子ベータ (TGF-β)の発現に注目した実験では,OVA+水酸化アルミニウムによる喘息感作の段階からカイジ製品を 1 ヶ月間摂取したマウスは,血中 IgE, BALF 中の IL-4 および肺組織 TGF-β の発現は摂取していないモデルマウスに比べ半分程度に低下し,血中 IFN-γ は 3 倍に上昇した.TGF-β は線維化,平滑筋肥大,気道リモデリングに重要な役割を演じている.小児喘息寛解群では TGF-β の産生が少なく,喘息群では TGF-β の産生が多いことが分かっている.カイジ製品の摂取が喘息マウスに見られる肺組織 TGF-β 過剰発現を低下させたことは気道線維化,気道リモデリングが抑えられ,喘息が寛解していることを意味する9).


 臨床報告は小児反復性気道感染や気管支喘息に集中している.小児反復性気道感染は気管支喘息の発症誘因であり,患者の体内に免疫反応の異常が存在する.免疫調節作用のあるカイジ製品は治療または予防によく使われる.急性症状が寛解した小児反復性気道感染患者にカイジ製品を 4–810),811),または 12 週間12,13) 投与し,その後 6 ヶ月間追跡した.治療後 IgA, IgG10–13), IgM11–13),CD3+ 12,13), CD4+ 10), CD4+/CD8+ 12,13) が有意に上昇し,追跡期間中の再発回数や程度などを基準に評価した総有効率は 80%以上であった10–13).入院中の脳性麻痺を持つ小児反復性気道感染患者に 28 日カイジ製品を投与する研究では,有効率は 90.3%にものぼった14).免疫調節剤との比較はピドチモド15),黄耆抽出液16),黄耆顆粒17) との間で行われた.IgA, IgG, CD3+, CD4+ 16,17),CD4+/CD8+ 16) はカイジ製品群で治療前より有意に上昇した.免疫グロブリンと 6 ヶ月の追跡期間中の再発率は照グループと比べて有意に改善した15).総有効率は97%vs 69%16),94.44% vs 90.00%17) で,カイジ製品併用群が対照群よりすぐれていた.溶菌液との併用でも免疫グロブリンと CD3+, CD4+, CD4+/CD8+ が治療後に上昇し,類似の結果が得られている.症状改善基準での有効率は 83.8%であった18.


 抗生物質剤単独治療との比較では,総有効率(84.9%vs 40.8%)も免疫グロブリン(IgA と IgG)の改善もカイジ製品と併用したほうが効果がすぐれていた19).3 ヶ月の抗生物質剤治療で数値が変わらなかった対照群に対し,カイジ製品併用群の Th17 が有意に低下し,総有効率も有意に高かった(86.00% vs 75%)20).通常の抗炎症治療よりカイジ製品との併用は総有効率21,22),免疫グロブリン21,23),CD3+, CD4+, CD4+/CD8+ 15), IGF-I を高め,再発回数を抑えた24).半年の追跡期間中の一人当たりの累積気道感染回数,累積気道感染回数の持続日数,一回の感染がかかった日数ともに有意に減少した23).免疫グロブリン及び IGF-I の低下は反復性気道感染の発症に関与しているとされており,カイジ製品による反復性気道感染の改善はこれらを高める作用に関連すると考えられている24).


 気管支喘息は毛細気管支炎の繰り返す発作からなるケースが多い.約 3 割の患者は後日気管支喘息になると指摘されている.毛細気管支炎の予防効果は気管支喘息の発症率を大きく左右する.孫らが 277 例の毛細気管支炎患者を対照群とカイジ製品摂取群に分け,3 年間追跡したところ,対照群の 151 人に 33 人(21.85%)が気管支喘息になった.一方,年に少なくとも 1 ヶ月以上カイジ製品を摂取した介入群の 126 人のうち,気管支喘息になったのは 12 人(9.52%)と,有意に少なかった25).このことから,カイジ製品は気管支喘息の発症を予防できると考察されている.


 小児乾性咳嗽の約 3 割は咳喘息 (CVA) に由来し,50%〜80%の小児 CVA は気管支喘息になる傾向がある.CVAと気管支喘息とは気道の炎症に関して本質的な違いがないと指摘されている.ロイコトリエン受容体拮抗剤のモンテルカストナトリウム咀嚼錠は好酸球数を減らし,気道の炎症を軽減し,しばしば小児 CVA 患者に処方される.90 例の小児 CVA 患者を 2 群に分け,3 ヶ月間モンテルカストナトリウム咀嚼錠の単独使用およびカイジ製品との併用との治療効果を比較したところ,カイジ製品併用群の PEF も FEV1 も有意にすぐれ,また,1 年追跡中の再発率が有意に低かった(26.7% vs 8.9%)26).同じデザインの研究は気管支喘息でも行われた.3 ヶ月後,カイジ製品併用群はモンテルカストナトリウム咀嚼錠単独使用群より FEV1, PEF, FEF25%, FEF50% が上昇し,総有効率も有意にすぐれていた(95.0% vs 73.3%)27).気管支喘息への効果に関して,孫は発作寛解後の小児気管支喘息患者 60 名にカイジ製品 12 週間投与してから6 ヶ月間追跡し,治療前後の免疫グロブリンや T リンパ細胞のサブグループを比較した.症状,徴候,追跡期間中の再発回数で評価した総有効率は 91.67%に達した.IgA, IgG, IgM, CD3+, CD4+, CD4+/CD8+ の数値はともに治療により有意に上昇した28).李は 50 名の患者を同じ方法で観察した.6 ヶ月後に評価した 84%の総有効率が 3 年後に追跡できた 30 名で再評価しても 80%の高い水準を保っていたと報告されている10).


 糖質コルチコイド剤,気管支拡張剤,抗生物質剤(感染が確認された場合)の使用で気管支喘息の急性発作を寛解してからカイジ製品を 3 ヶ月間追加した治療では,有効率がカイジ製品を追加しなかった時の 36.7%から83.3%に上昇し (p < 0.01),喀痰炎症細胞の細胞総数,好中球%,好酸球%,リンパ球%,血清 IL-4 がともに有意に減少し,IL-12 と IFN-γ は 3–5 倍に上昇した29).糖質コルチコイド噴霧器,気管支拡張剤噴霧器,モンテルカストナトリウム錠での治療と同時にカイジ製品を併用した治療との比較を行った研究で,気管支喘息患者は健常者に比べ,ベースラインの Th1 レベルは低く,Th2 と Th17のレベルは高かった.3 ヶ月の治療を経て,Th1, Th2, Th17の数値がともにベースラインより有意に回復した.カイジ製品を併用しなかった気管支喘息患者の Th17 レベルも下がったが,統計学的にカイジ製品併用群のみに有意性が認められた.カイジ製品併用群の総有効率は併用しなかった群よりすぐれた (p<0.05)30).Global Initiative for Asthma (GINA) のガイドラインに従った治療をベースにした研究では,2 ヶ月間カイジ製品を併用した治療群は,昼間の症状,咳嗽および発作回数が明らかに併用しなかった群より改善した31,32).6 ヶ月の追跡期間中の再発回数を基準に評価した効果および中医学証候の改善を基準に評価した効果はともにカイジ製品併用群がすぐれた.一部免疫機能測定を受けた併用群患者のデータを見ると,治療後に IgG, CD4+/CD8+ が有意に上昇し,CD8+ と総 B 細胞が有意に低下した32).金らの研究では,カイジ製品併用群の小児喘息コントロールテスト (C-ACT) の結果が対照群よりすぐれ,PEF, PEF25,PEF50, PEF75 での評価もそれを支持した.2 群の間に有効率の差が倍近くあった33).毛細気管支炎,咳喘息,または乳幼児喘息で喘鳴の症状を有する 45 名の乳幼児を治療した報告に,糖質コルチコイド噴霧器(マスク付き貯霧容器使用)とカイジ製品との組み合わせは,咳と喘鳴の寛解,多汗,風邪を引きやすい症状の改善,半年間の再発の予防に関して全員に有効で,7割以上の患者に顕著な効果をもたらした34).


 カイジエキスに枸杞エキス,黄精エキスを配合したカイジ製品は古典の教えから「治風,破血,益力」および「益気養陰」の作用があると考えられていた.928 人の小児気管支喘息患者を調べた疫学調査の結果をみると,59.6%の患者は気陰両虚の証に属する32).益気養陰のできるカイジ製品は東洋医学的に小児気管支喘息に相応しい候補となっている.現代医学的に,上記の論文が示しているように,カイジ製品は,細胞性免疫にも液性免疫にも調節作用があると確認されている.IFN-γ を産生させ,Th1-Th2 バランスを Th1 優位方向に導く以外に,細胞外で増殖する細菌や真菌の排除に重要で,自己免疫疾患における慢性炎症の維持にも関与している Th17 を抑えることで IL-17 誘発の好中球活性化に影響を与え,気管支喘息の症状を軽減し,再発を防ぎ,糖質コルチコイドの使用を減らせ,治癒率を高められるため,早期治療,長期治療,予防重視の GINA ガイドラインの理想的な補完療法とみなされよう.


腎臓疾患


 腎臓病に対する関心は,ここ数年透析患者数および医療費の増加の報道で一段と高まってきた.日本は透析患者数が極めて多い国であり,これらの透析費用をはじめ,膨大な医療費を抱えている.慢性糸球体腎炎,慢性腎不全,ネフロ−ゼ症候群など腎臓病の補完医療としてカイジ製品が注目を浴びつつある.


 東洋医学では古来「腎」を重要視している.「腎」は「在竅為耳」(耳の症状でその状態を反映する)「其華在髪」(髪の毛もその状態を反映する)とし,「主水液」(体内水代謝をつかさどる),「蔵精」(生命エネルギーをたくわえる),「主納気」(呼吸を深める主役),「主骨」(骨を滋養する)などの機能を有すると説明している.したがって,東洋医学の臨床では,耳,髪の毛,水代謝,成長・発育・生殖,内分泌,脳,呼吸,骨,歯などの異常は「腎」から治療するのが一般的である.カイジ製品は数多く腎臓疾患に処方される漢方薬の中の一つである.小児尿路感染症の治療にカイジ製品を加えると,免疫グロブリンの中,IgG および IgA が抗菌剤だけでの治療より有意に上昇したことは郭より報告されている35).小児尿路感染症は不適切な治療により,容易に再発する事が多い.上部尿路の感染が繰り返し慢性化して,また腎に瘢痕を残すことで腎機能の低下につながる.カイジ製品は体液性免疫を高め,抗菌治療を補助し,再発の予防にも役に立つと考えられる.


 小児腎臓疾病の中で,血尿はタンパク尿に並んで,発症率がもっとも高い病気の一つである.中国第十五回全国小児腎臓病学術会議〓 2012 中華医学会全国小児免疫学学術会議にて,対照群とビタミン E 群との比較臨床研究で,カイジ製品の摂取は明らかに血尿陰性化率に貢献したことが李より報告された.効果は 2 ヶ月目から現れはじめ,5 ヵ月目に陰性化率のピーク(40%)を記録した.診断分類から見ると,メサンギウム増殖性糸球体腎炎に起因する血尿の陰性化率がもっとも高い.蛍光抗体法では,IgA 腎症にも可能性が見られたが,IgM 腎症にもっとも効果的だった.


 IgA 免疫複合体が腎糸球体メサンギウムに沈着するIgA 腎症は,もっとも多い慢性糸球体腎炎であり,成人では腎生検後 20 年間の予後として約 40%が末期腎不全に陥ると報告されている36).厚生労働省研究班 1994 年の調査によると,日本人慢性糸球体腎炎の約 4 割が IgA 腎症である.王らは IgA 腎症モデルマウスにカイジ製品を4 週間投与し,尿タンパクおよびメサンギウム細胞増殖の軽減をもたらした.光学顕微鏡上および蛍光抗体法では,メサンギウム領域への IgA 沈着を伴うメサンギウム細胞増殖とメサンギウム基質の拡大がカイジ製品投与群において抑制された.モデル動物の低下した IL-2, INF-γ,INF-γ/IL-4 はカイジ製品の投与により正常化され,血清総 IgA 濃度にも類似の結果が確認された.これらの効果は Th1/Th2 調整によるものと考えられている37).陸らがネフリンとポドシンに着目し,IgA 腎症モデルラットにカイジ製品を投与し,尿中赤血球数と尿タンパクの減少,メサンギウム細胞の増殖,被蓋細胞突起の融合,IgA 沈着など腎組織病変の軽減,また,糸球体ネフリン発現,腎皮質ネフリン mRNA とポドシン mRNA 発現の上昇を

確認した38).病理診断で確認された,血尿かタンパク尿(≦2 g/日)を持つ 45 人の成人軽度 IgA 腎症(ステージI–II)患者を無作為にカイジ製品群か対照群(治療しない群)に振り分け,12 週間を観察した.0, 4, 8, 12 週目の24 時間尿タンパク排出及び血尿は評価に用いられた.対照群に比べて,カイジ製品群の 24 時間尿タンパク排出は8, 12 週目に有意に低下し,血尿完全寛解率は有意に高かった.12 週目に,カイジ製品群のタンパク尿完全寛解率は対照群より高く,血尿は軽かった.カイジ製品群に有害事象もなかった.カイジ製品はステロイド剤や免疫抑制剤を耐えきれないIgA腎症患者にとって,新しい保存療法の選択肢として考えられる39).ネフローゼ症候群は毎年日本で 4,000 例前後新規発症しており,新規発症の難治性ネフローゼ症候群は 1,000例以上と推定されている40).朱らがアドリアマイシン誘発ネフローゼ症候群のげっ歯類モデル動物を用いた研究では,カイジ製品は培養被蓋細胞の低下したネフリンおよびポドシン発現を回復させ,実験動物の被蓋細胞および尿細管間質の損傷を改善し,有意にタンパク尿および血清アルブミンを上昇させた41).


 中国第十五回全国小児腎臓病学術会議〓 2012 中華医学会全国小児免疫学学術会議で発表された薛らのデータでは,カイジ製品はタンパク尿と血清アルブミンの変化以外に,血清クレアチニン,IL-17 の低下ももたらした.また,孫らが報告した研究で,同モデル動物の腎臓にネフリンとポドシンのmRNA およびタンパクの発現が有意に減少したが,カイジ製品またはグルココルチコイドにより正常化した.カイジ製品とグルココルチコイドとの併用投与は単独投与よりも効果的な傾向を示した42).更に,原発性ネフローゼ症候群に及ぼすカイジ製品の臨床効果は小児患者にても検討された.プレドニゾンにカイジ製品を加えたところ,プレドニゾン単独使用より,浮腫消退43) および尿タンパク陰性化に要する日数43–45),感染を合併する症例43,44),治療後 1 年以内の感染回数および再発率が有意に減少した45).血液検査では,アルブミン,IgA45), IgG,CD3+ 43,45), CD4+ 45,46), CD4+/CD8+ 43, 45, 46), NK 46,47), Foxp3+Treg 48) が有意に上昇し,IgE 45), CD8+ 47), IL-18, TNF-α49)が有意に低下した.カイジ製品の効果は Foxp3+ Treg 48),TH1/TH2 を高め45),IL-18 の作用を抑え,IL-10 低下48) またはプレドニゾンによる IL-10 抑制に対抗することに由来する可能性が示唆された49).また,重篤な副作用も認められなかった43).


 さらに,慢性腎不全患者の細胞免疫機能に及ぼすカイジ製品の影響は既存の慢性腎不全統合療法にカイジ製品を加えた形で検討された.SCrが <442 μmol/l, >186 μmol/l,CCr が <50 ml/min, >20 ml/min の慢性腎不全患者 26 例にカイジ製品を 10 g×2 回/日×8 週間投与したところ,治療前または対照群の 26 例に比べて,CD3+, CD4+, CD4+/CD8+の上昇,CD8+ の低下が確認された.治療前に 2 群の間に差がなかった IL-2, IL-6 はカイジ製品群でそれぞれ上昇または低下し,治療前または対照群に比べて有意に高または低かった50).


 カイジ製品が臨床的に腎臓病の進行を遅延させるあるいは,慢性腎臓病の新治療法としての可能性は現在検討されている.第 4 回世界中西医結合大会で発表された段らの研究によると,18 歳以上でステージ I–III (eGFR =45 mL/min/1.73 m2, SCr < 200 μmol/l) の原発性糸球体疾病患者に,カイジ製を投与したところ,赤血球数と尿タンパクが 50%以上減少し,SCr の低下および eGFR の上昇傾向が確認された.投与後 1 ヶ月目から数値が改善したため,普及する価値が高いとされている.糖尿病性腎症は糖尿病によって腎臓の糸球体が細小血管障害のため硬化して数を減じていく疾病である.高血糖状態が長引くと,全身の動脈硬化が進行し,腎臓に障害が及び,蛋白尿,ネフローゼ症候群等を経て最終的に慢性腎不全に至る.糖尿病性腎症に及ぼすカイジ製品の効果も臨床研究で検討されている.平均年齢 (57.01±9.8)歳,糖尿病歴(5 年〜18 年),全員尿タンパク陽性 (+〜+++),そのうち代償性腎不全期 33 例,高窒素血症期 32例の 65 例(男 42 例,女 23 例)の患者に血糖コントロール+カイジ製品の治療を行ったところ,24 時間尿タンパクは 4 週目に有意に減少し,8 週目と 12 週目の数値はさらに有意に低下した.一方,血漿アルブミンは 8 週目から有意に高値を示した51).


 腎臓病の原因が多岐にわたるが,ほとんどが免疫性炎症と関わる.免疫性炎症が糸球体の膜性病変,増殖,繊維化および血尿,タンパク尿,クレアチニン上昇などの急性および慢性腎機能損傷を引き起こす.現代医学では,ステロイド剤と免疫抑制剤での腎臓病治療が多いが,免疫性炎症が免疫サイトカインの影響を受けるため,炎症への抑制が過小でも過大でも炎症を促進してしまうおそれがある.外部からの免疫抑制剤を,組織の炎症に相応した量で投与するのが理想的だが,臨床的には極めて難しい.一方,体内の免疫調節機能を強化するのが理想の選択として期待されている.基礎及び臨床研究のデータから見ると,カイジ製品はすぐれた免疫調節作用を有すると推察され,理想的な内部免疫調整促進物質の一つとして腎臓病治療が期待できよう.


その他


 カイジ製品は呼吸器疾病と腎臓疾病以外にも応用されているが,免疫システムの異常と関連する疾病がほとんどである.論文にまとめられたものがまだ少なく,模索の段階にある.カイジ製品の主成分であるカイジエキスをアヒル B 型肝炎ウイルス (DHBV) に感染されたアヒルに投与すると,血清 HBV-DNA が有意に低下した.インターフェロンの産生がカイジエキスにより誘導されることもマウスにて確認されている.カイジエキスを顆粒化したものを臨床に応用したところ,ビタミン C を摂取した対照群に比べて,治療群の HBeAg 陽性患者の 33%(対照群は 5%)が陰性化に成功し,ウィルス性肝炎のがん化を阻止する可能性が示唆された52).別の慢性 B 型肝炎感染患者を観察した臨床研究で,治療群と IL-2 群との間に,HBeAg 陰性化率に有意差がなかった53).免疫システムと関係が少ないと思われるのは,3 ヶ月間のカイジ製品摂取と耳ツボ刺激(眼,脾,腎,肝,心,目 1,目 2)との併用は,レボドパと大型弱視鏡との併用(傍中心窩固視の場合は残像法とハイディンガーのブラシ)よりも小児弱視への治癒率(65.9% vs 50%)も総有効率(95.5% vs 84.2%)も有意にすぐれたという報告がある54).重度よりは軽度,斜視弱視よりは屈折異常弱視と不同視弱視,傍中心窩固視よりは中心窩固視のほうが改善しやすい.カイジ製品の東洋医学での健脾補腎の効果が後天に作用し,先天不足による弱視を改善したと著者らが結論付けをしている.これは耳ツボ刺激の単独使用との比較がないのは残念だが,小児弱視の治療に新しい可能性を提示したものである.


 カイジ製品は,まれに見られる緩下作用以外には副作用がほとんどないため,日本国内において,自由診療を行うクリニックや薬局などで機能性食品とし使用されている.免疫システムにすぐれた調節作用が確認されているため,すでに発表された疾病だけではなく,風邪,水痘,流行性耳下腺炎,アトピー性皮膚炎,花粉症,アレルギー性鼻炎,リウマチなどへの効果も期待されている.カイジはもともと医薬品として開発,検証されてきたものなので,薬理作用や臨床効果などのエビデンスは普通の食品と比べて非常に多い.以上のことから補完代替医療分野での応用がもっとも期待される食品の1つとなろ

う.


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ABSTRACT

Application of Huaier Products to Noncancer-Related Fields

Buhao ZOU1, Fenghao XU2, Nobutaka SUZUKI3

1 Office of Traditional Chinese Medicine, ARTFOODS Co., Ltd.

2 Integrated Medicine Laboratory of Urata Clinic of Medical Corporation Hospy

3 Department of Complementary and Alternative Medicine Clinical Research and Development,

Kanazawa University Graduate School of Medical Science

It has been almost ten years since Huaier products were first introduced to Japan as a health food. Due to its positive results on

tumor treatment, Huaier became a notable Traditional Chinese Medicine and even, doctors of Kampo Medicine, Complementary and

Alternative Medicine, and Integrative Medicine in Japan are gradually becoming aware of it. In fact, Huaier products have also been

confirmed to be effective against noncancer-related diseases, such as respiratory and kidney diseases. In this paper, we summarized

and discussed in detail scientific evidences supporting its application to diseases other than cancer.

Key words: Huaier, Health food, Asthma, Kidney disease, Immunomodulation


《腫瘍以外の分野でのカイジ製品の応用》原文kaijidaitaiiryou.pdf



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